令和時代の政策創りと新たなるパブリック・キャリア

令和時代の政策創りと新たなるパブリック・キャリア

政策起業家達の春—足元から芽吹く政策創造・社会課題解決のモデル

官僚達が冬の時代を迎えるなか、足元の日本社会では、政策・社会課題解決手法とその 「担い手」の静かな変革が起きている。在野の政策専門家達の様々な創意工夫の芽生えだ。


「僕たち社会起業家は、事業を通じて社会問題を解決するモデルを創り出す。(中略)実際の現場の知識をもってして、誰よりも鋭く制度の欠陥を見破り、政策立案者達に代替案を届けていく。」

(駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする—社会起業家という生き方』筑摩書房、2011年、 232頁から抜粋)


まず一つはNGO/NPO、ないしは社会起業家(social entrepreneur)と呼ばれる人々が、国内の政策・社会課題解決で果たす役割・インパクトが大きくなっていることである。

例えば駒崎弘樹氏は、認定NPO法人フローレンスを率いて、待機児童問題解決の最前線に立つ人物だ。彼らが2010年、国に先行して始めた実験的事業である「おうち保育園」は、2015年4月施行の「子供・子育て支援法」に規定された「小規模認可保育所」制度の土台となった。彼は業界団体の立ち上げや厚労省との折衝の中で法案の制定に早期から関与し、自らの取組を「国にパクらせ、政策化する」ことで問題の解決を行うことを、明確に意識して行動していた。


「日本において、大学やシンクタンクに所属している研究者と、政策担当者たちとの交流がそれほどなく、政策形成・意思決定プロセスがどんなものか、よくわかっている研究者が少ない(中略)。したがって、SciREXの研究者に対しては、同世代の役人たちと常にインタラクションを持ち、政策担当者が持っている問題意識を取り入れる形で自分の研究を進めて欲しいとお願いしています 。」

(Academist Journalによる白石隆 SciREXセンター長へのインタビュー、2019年3月12日 から抜粋)


また今般は大学やシンクタンクも、これまで以上に「政策と調査研究を架橋する」試みを強く意識している。例えば2011年度から始まった「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」(SciREX)は、事務局機能を持つ政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センター(SciREXセンター)が、複数の大学と連携し、特に科学技術分野での政策形成と研究の橋渡しを目指す各種事業を進める。

こうした試みは、例えば「国/政府」が独占するイメージが強い外交・安全保障の分野ですら部分的に見られる。2010年代には防衛省防衛研究所(NIDS)、中曽根平和研究所(NPI:旧世界平和研究所)など一部のシンクタンクから、防衛省内局や内閣官房国家安全保障局に研究者が出入りしている。その中には高橋杉雄氏(現NIDS政策シミュレーション室長:専門は同盟・抑止論)や大澤淳氏(現NPI主任研究員:専門はサイバーセキュリティ)など、卓越した知見を活かし、比較的長期に渡り当局で戦略・政策立案に貢献した研究者の姿もある。


「日本企業は(中略) “ルールは政府がつくるもの”という意識であるため(中略)、結果ルールを構想する段階から能動的に参画する意識が欠落し続けている。一方、欧米企業はよりよい世界を形づくるうえでルールは常に革新されていくものであるという前提に立ち、企業と政府の立場に関係なく、あるべきルールを議論することは常に責務であるという認識を持っている。」

(國分俊史、福田峰之、角南篤編『世界市場で勝つルールメイキング戦略―技術で勝る日本企業がなぜ負けるのか』朝日新聞出版、2016年、2頁から抜粋)


更に、営利企業がいわゆる陳情を超え、積極的に政策形成に関与する動きも活発化している。グローバル化、国際情勢の流動化、急速な技術革新等に伴い、各国の政策の動向が民間事業に与える影響力が増す中、戦略的に国内/国際的なルール形成に民間が取り組むことの重要性が意識されつつあるからだ。

ここでは、例えば民間のコンサルタントなどが活躍している。現在はEY(アーンスト・アンド・ヤング)アドバイザリー・アンド・コンサルティング Strategy パートナーを務める國分俊史氏は、2016年に多摩大学と連携しルール形成戦略研究所を創設、所長として上記のような国際的なルール形成に関する取組に辣腕を振るう。この研究所は、顧問兼シニアフェローを務める甘利明衆議院議員(元内閣府特命担当大臣[経済財政改革])が自民党のルール形成戦略議連を通じて2019年3月に日本版国家経済会議(NEC)創設を提言し注目を集めるなど、産学官を超えた政策提言の取組を活発化させている。

政策が創造・変革・実施されるプロセス(政策過程)に参画し貢献する、多様なプロフェッショナルを、欧米の政治学では「政策起業家(policy entrepreneur)」と表現する。日本では聞き馴染みのない言葉だが、2010年代の日本は、日本型の政策起業家達の創意工夫が、各分野で静かに芽生え始めた―まさに在野の政策起業家の春を迎えたといえよう。

官僚達の“二度目”の夏—新時代の政策創造の姿に対する期待


「空飛ぶクルマは、政策立案手法においてもひとつのテストケースだと思うんですよ。外部の専門的な知見を積極的に取り入れることは僕たちがチャレンジする新しい政策立案手法です。(中略)世の中の変化に合わせて政策立案手法もどんどん変わっていくべきだし、そのためには社会との双方向の対話が重要になります。」

(経済産業省METI Journal 「政策特集:空の移動革命がもたらす未来」(2019年4月)における海老 原史明 経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課課長補佐 発言を抜粋)


在野の政策起業家達が活躍を見せる中で、霞ヶ関の中でも次の時代を支える革新的な政策創りの手法と、新たな時代の行政官像を想起させる風が吹いている。

経済産業省は、次世代モビリティの目玉である「空飛ぶクルマ」を、2023年までに社会実装/事業化することを目指している。このため、省内横断的に組織された若手官僚達のプロジェクトチームが、関係省庁に加え、国内の有志団体・地方自治体・大学(東京大学など)とも早期から制度設計・実証実験で連携する。

また、行政にはない技能や知見を持つ民間の専門家と併走して政策を創るため、副業・兼業の制度を活用した「週1官僚」ポストも創設した。このポストには、2019年3月から4月の1カ月間で、1300名近い応募が殺到した。


「小泉小委員会が打ち出した(中略)3つの提言は、すべて自民党の政策決定プロセスに乗った。若手議員が議論してまとめ上げ、発信した提言が党や政府に受け入れられたということは、小泉の言葉を借りれば、‘政策決定過程のイノベーション’にほかならない」

(藤沢烈『人生100年時代の国家戦略:小泉小委員会の500日』東洋経済新報社、2017年、307頁から抜粋)


そうした革新は、霞ヶ関の官僚達だけのものではない。永田町でもまた、新たな風が吹いている。小泉進次郎衆議院議員を中心とした「2020年以降の経済財政構想小委員会(通称:小泉小委員会)」は、自民党内の若手議員を中心に、ボトムアップでの積極的な政策立案・提言を行ってきた。震災復興・地方創生分野で活躍してきた社会起業家集団RCF代表理事の藤沢烈氏をはじめ、民間の協力者と共に「子ども保険」の創設など様々な社会保障政策を提言し、2017年閣議決定の政府「骨太の方針」にその内容を盛り込ませた。官邸・霞が関と異なる路線で、政策代替案を政府公式の検討プロセスに打ち込んだことで注目を集めた。

霞ヶ関と永田町でのこうした試みが、今後様々な政策分野での政策形成手法のイノベーションに繋がるかは未だわからない。しかし、次の時代を支える革新的な政策形成手法への期待は、永田町・霞ヶ関の「外」からと同時に、「中」からも確実に膨らんでいる。

そして、この期待は官民を超え議論される「働き方改革」の問題意識とも合流し、大きなうねりを見せる。例えば政府は2018年の「未来投資戦略」で、公務員の兼業・副業規則を明確化し、公益性を持つ兼業・副業に関しては今後促進する方向性を盛り込んだ。そうした試みを通じて、従来の霞ヶ関の役人像を超えた、新しい行政官のスキル・キャリアパスを模索する熱が、特に若手官僚達の間で高まっている。

官僚や政治家達も、決して冬の時代に座して死を待つわけではない。彼/彼女ら自身もまた、「二度目の夏」を静かに迎えている。

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