21世紀日本の政策起業家論(2)

21世紀日本の政策起業家論(2)

英国から令和日本への教訓
:政策起業家と政策共創過程は「創りうる」もの

英国におけるAD卿の事例を見たもう一つの理由は、政策起業家による開かれた政策共創が、概念の生まれ故郷の米国を超え、世界各国で成立しうることを教えてくれるからだ。

英国は、伝統的に政策形成過程の閉鎖性(中央政府の影響力)が強かったことで知られる。一方、AD卿が活躍した時期の英国(ブレア~ブラウン労働党政権期)は、英国の政策形成過程が、外部の専門家集団も交えた開かれた政策共創に向け舵を切る過渡期であった。特にブラウン政権が組閣理念として掲げた、“あらゆる才能を結集した政府(Government of All the Talents)”という標語は、まさにこうした発想を象徴している。

このことから、少なくとも政策起業家という人物/発想は、米国の専売特許ではないことがわかる。各国に、その国の実情に応じた政策起業家は存在しうるのだ。事実、政策起業家とその研究は、英国に限らず、オーストラリア、イスラエル、オランダ、EU諸国、中国でも見られ、また日本でも数は少ないが、これまでも存在してきた。

確かに、「政策起業家」概念の生まれ故郷である米国は、彼ら/彼女らが活躍し易い国だろう。立法機能が強い議会、政策起業家が政府に出入りし易い「回転ドア(revolving door)」制度、更には、数多のシンクタンクなど、人財供給源となるプラットフォームの豊富さなど…政策起業家の活動を支えるエコシステム(生態系/ecosystem)が根付いているのは間違いない。

しかし、英国とAD卿の事例が私たちに教えてくれるのは、「政策起業家は『与えられた』ものではなく、各国の社会が『育てる』ものであり、そのためのエコシステムもまた各国が『創り出す』もの」であることだ。当時の英国同様、まさに政策形成過程とパブリックなキャリアの過渡期にある令和日本も、この教訓に学ぶべきかもしれない。


2回にわたり「政策起業家とは何か(誰か)」を見てきたが、もう一つ、大きな問いが残る。そもそもなぜ、政策起業家という人物や発想は、令和日本の政策形成過程を考える上で重要なのか―次回以降は、現時点でのプロジェクトの問題意識を踏まえつつ、この問いに正面から向き合っていく。

 (API 21世紀日本の政策起業力プロジェクト事務局)

主要な参考文献一覧

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