国際政治学者 鈴木一人氏が語る、 激動の安保環境における研究者の使命(前編)

国際政治学者 鈴木一人氏が語る、 激動の安保環境における研究者の使命(前編)

シリーズ「政策起業家Retrospect & Prospect」第3回

シリーズ「政策起業家Retrospect&Prospect」では、日本社会で、政策にかかわるプロフェッショナル、「政策起業家」にお話しを伺いながら、令和日本の政策・社会課題解決と、政策人材のキャリアをとりまく課題と展望を読者の皆さんと一緒に考えていきます。

連載第3回目となる今回は、鈴木一人 北海道大学公共政策大学院副院長・教授にお話を伺います。鈴木教授は国際政治学の中でも国際政治と科学技術が専門で、その関わりとして政府や国際機関で様々な仕事に携わってこられました。研究と実務の両方に関わってきた鈴木教授に、研究と政策の接続、あるいは政策志向(policy-oriented)な研究におけるキャリアについてお話を伺います。

プロフィール

鈴木一人 北海道大学公共政策大学院副院長・教授

1970年生まれ、英国サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授、北海道大学公共政策大学院教授などを経て2015年から現職。専門は、国際政治、大量破壊兵器不拡散、輸出管理、宇宙政策、科学技術と安全保障等。2013年から2015年まで国連安全保障理事会イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。福島第一原発事故の調査にも関わり、原子力安全規制の研究も行う。内閣府宇宙政策委員会宇宙安全保障部会メンバー。日本安全保障貿易学会会長。主著に『宇宙開発と国際政治』、『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(共編著)等がある。

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若手研究者時代の原体験―国連代表部と、欧州での宇宙政策研究

--大学院進学から研究者の道を意識されるまでのエピソードを教えてください。

はじめから研究者になろうと強く意識していたわけではないのですが、大学の学部時代に大学院への飛び級制度1期生としての声がかかったこともあり、「だったら、大学院まで行ってみようか」というノリで飛び込んでみたのがまずはじまりです。そんな中で、大学院修士1年生の時に、いろんな縁で外務省国連代表部のインターンを半年やらせてもらうという機会に恵まれました。

--国連代表部のインターンとは、何をなされていたのでしょうか。

当時日本ではインターン制度は馴染みがなく、外務省側も当初扱いに困ったようですが、ここで「私、インターンですから」とか「私、学生ですから」とビビったらだめだと思って、とにかく仕事が取れるだけ取ろうと考えました。国連から会議案内が毎日出てくるので、「この会議面白そうだ」と思ったらそこに潜り込み、その内容で報告を書いて、といった感じです。最初は報告の書き方も分からないので沢山赤を入れられて返されるのですが、そのうち要領がつかめてくる。だんだん「こいつ使える」という感じになってくると「ちょっと、この会議、出席できないから行ってきて」といった形で色々な仕事をもらってきました。

事実上、若手の外交官として働いていたような感じですね。ちょうど、1993年の9月、ハイレベル(政府間)会合の時から翌年の3月ぐらいまで籍を置いていたのですが、日本は1993年まで安保理(安全保障理事会)メンバーだったので、その間はシニア(本職の外交官)の人たちは安保理に出るわけです。僕が代わりに経社理(国際連合経済社会理事会)とか、政務班にいたので総会の第一委員会や第四委員会に行ってノートとってレポートを書く仕事をさせてもらう。他には、UNTAC(国際連合カンボジア暫定統治機構)から帰ってきて旧ユーゴ問題担当・国連事務総長特別代表に就任する前の明石康さん(のち国連事務次長)の連絡役などもやっていました。

 

研究者として生きていくと決めた一方で、国連代表部で働いた経験というのが政策志向(policy-oriented)な研究者になる原体験だったのかとも思っています。

--国連代表部で外交官のような第一線のお仕事をしたうえで、その後に外交官(外務官僚)ではなく、研究者としての道を選択されたのはどのような経緯だったのでしょうか。

インターン経験もあったので、外交官を考えていた時期もあります。ただ、大学院での研究と外務省での実務を双方比べた上で、「俺はもしかしたら大学院で勉強をしている方が性に合っているかもしれない」と思って、研究者の道を選びました。外務省をはじめ官庁だと、自分の専門以外の様々なポストに人事の都合で回されていく。一方で、研究者は特定のテーマに対して長期間・専門的に取り組むことができる。この点が自分の中では決定的でした。

当時の自らの専門と、それを踏まえ進路選択をしたときの時代的な背景もあると思います。私が大学に入ったのが1990年で、飛び級で大学院に入ったのが1993年でした。私が大学・大学院にいた時代は、冷戦が終わり、ソ連が崩壊するなど激動の時代でした。世界がこれからどこに動くかわからない中で、「分からないものを分かろうとする=答えがない答えを探す」ことが面白かったので、「これは外務省に行ってる場合じゃないな」と思いました。

このようにして研究者として生きていくと決めた一方で、国連代表部で働いた経験というのが政策志向(policy-oriented)な研究者になる原体験だったのかとも思っています。国連の中で、「こういう風に世界ができている」というのを見たので、その経験が自分の中での大きな資産になりました。現場を見た経験と「その上でアカデミックな世界で答えを見つけたい」というモチベーション・気持ちとが混ざって、今の自分の方向性に大きく影響しているのはおそらく間違いないと思います。

--国連での実務に加えたもう一本の柱として、大学院時代の研究はどのように現在の道に繋がっているのでしょうか。

元々の専門はヨーロッパ統合、とりわけフランスのヨーロッパ外交・ヨーロッパ統合政策を専門にしており、ヨーロッパのことを研究するなら日本にいても埒があかないので、その時に著作を読んでいて面白いと思ったヘレン・ウォレス(Helen Wallece)という研究者の下で研究したいと思い、イギリスのサセックス大学大学院博士課程に入り、PhDを取った次第です。

イギリスに行く前に『グローバリゼーションと国民国家』という本を日本での師匠である田口富久治先生と書いた時の問題意識として、「冷戦が終わってグローバル化が進む時代に国家はどう変わるのか」というのがありました。一方で技術はグローバル化を進めるドライビング・フォースであり、他方で技術というのは安全保障にかかわる問題でもあるのでナショナルなものでもある。ナショナルとグローバルの際(きわ)の部分に科学技術があるため、ここを見ればシビルとミリタリーの両面でナショナルとグローバルとの関わりが見えてくるのではないかと考え、博士論文はヨーロッパの宇宙政策をテーマにして、宇宙を巡る欧州の国際協力の制度論的な研究などをやりました。

先行研究そのものが非常に少なく、他人の研究の上に自分の研究を成り立たせるようなことはできなかったので、「現場」に行って当局者に話を聞いて回りました。イギリス・フランス・ドイツ、イタリアとスペインでヒアリングをしましたし、オランダ、ベルギー、EUの欧州委員会にも行きました。インタビューを60件以上やって、色々な人と知り合いになりました。このプロセスの中で、現場の人たちの話をアカデミックな言葉に「翻訳」し、同時にアカデミックな言葉を現場の人たちに分かるよう「翻訳」していたことが、研究と政策を繋ぐ現在のスタイルの源流を作ったのも確かだと思います。

宇宙×国際政治のプロフェッショナルとなるまで

--鈴木教授といえば、宇宙安全保障・宇宙と国際政治という分野の権威とのイメージがありますが、そのような立ち位置には、どのような経緯でたどりつかれたのでしょうか。

私自身の研究のモチベーションは、先程言ったようにグローバルとナショナルの間にある科学技術であり、元々は宇宙が好きだとか宇宙飛行士になりたいとか、宇宙に対する憧れが全くない中で、一つのケーススタディとして博論で欧州の宇宙政策協力をテーマに取り上げたわけです。

 

当時は日本の宇宙開発というと、理系の宇宙技術の大御所の先生たちがメインでした。 そうした状況だったので、私のような「宇宙開発が分かる政治学者」は国内では類を見ず、大変珍しがられました。

ただ当時は日本の宇宙開発というと、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のOBのような日本の宇宙開発の黎明期からいる理系の宇宙技術の大御所の先生たちがメインでした。国家としての戦略・政策、すなわち宇宙の「利用」から逆算して考えるのではなく、むしろ様々な技術「開発」が先にあり、その副産物を政策に活かすのが日本の宇宙政策のノーム(規範)だったわけです。そうした状況だったので、私のような「宇宙開発が分かる政治学者」は国内では類を見ず、大変珍しがられました。

その後、2003年の日本の宇宙政策に大転換を迫るある事件を経て、とある政治家の先生の秘書からお声がかかり、2000年代には宇宙基本法の策定プロセスに携わることになりました。


ありがとうございました。中編では、宇宙基本法の策定と、国連安保理での捜査という、鈴木教授のミッドキャリア時代のハイライトについてお話を伺います

(聞き手・編集:瀬戸崇志)

鈴木教授には2019年9月9日開催の『政策起業力シンポジウム2019』での個別分科会B『新領域/フロンティアの外交・安全保障-研究と政策を繋ぐこれからの研究者の役割-』にご登壇頂きます。詳細はこちらをご覧ください

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