安保研究者の梁山泊―佐竹知彦主任研究官が語る防衛研究所の任務と魅力(前編)

安保研究者の梁山泊―佐竹知彦主任研究官が語る防衛研究所の任務と魅力(前編)

シリーズ「政策起業家Retrospect & Prospect」第4回

シリーズ「政策起業家Retrospect&Prospect」では、日本社会で、政策にかかわるプロフェッショナル、「政策起業家」にお話しを伺いながら、令和日本の政策・社会課題解決と、政策人材のキャリアをとりまく課題と展望を読者の皆さんと一緒に考えていきます。

連載第4回目となる今回は、佐竹知彦 防衛研究所政策シミュレーション室主任研究官にお話を伺います。佐竹先生は同盟研究、アジア太平洋の安全保障、日米豪安全保障協力がご専門で、2013年には防衛省防衛政策局国際政策課部員を兼務され、研究者として実務に関わっていらっしゃいました。国立の安全保障シンクタンクである防衛研究所の研究官である佐竹先生に、研究と政策の接続やこれからの日本の安全保障分野における研究者・シンクタンクの役割についてお話を伺います。

プロフィール

佐竹知彦 防衛省防衛研究所政策シミュレーション室 主任研究官

2002年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2004年、同大学院前期博士課程修了。2010年、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了(国際関係論)。同年、防衛研究所入所。2013年から2014年まで、防衛省防衛政策局国際政策課を兼務し、各種国際会議における政府高官のスピーチ・ライティングや、日本の多国間安全保障協力の企画立案・調整を担当。専門は、同盟研究、アジア太平洋の安全保障、日米豪安全保障協力。近時の主要業績として、「豪州とインド太平洋―多極化時代における新たな秩序を求めて―」『国際安全保障』第46巻第3号(2018年12月)がある。

佐竹先生が所属する防衛研究所の詳細はこちら

学部生・大学院生時代の原体験―外交専門誌編集、国際交流基金、豪州留学

―国際政治・安全保障に魅力を感じ、その上で研究者の道を志すに至った経緯を教えてください。

高校卒業後、研究者である父の仕事の関係で半年間オーストラリアのキャンベラに滞在し、語学学校に通っていたことがあります。その時に一緒に学んでいた韓国人や中国人の留学生と、歴史問題や国際問題について議論したことが、国際関係に興味を感じたきっかけです。

その後慶應義塾大学に入り、3年からは添谷芳秀先生のゼミに所属して国際政治と日本外交について学びました。ゼミでの活発な議論はさることながら、添谷先生との出会いは大きかったです。研究者の本懐は、体系的な知識を基に、独自の理論なり世界観を確立すること―私は「オレ(俺)理論を打ち立てること」なんて冗談めかしていうのですが、それを持っている点で、添谷先生はまさにロールモデルでした。反面、就職活動の雰囲気には全く馴染めなかった。社会不適合者と言われればそれまでですが(笑)、じっくりと物事を追求したい性格の私にとって、大学院に進学し研究者を志すという道は、自然な選択であったように思います。

(大学院生時代の様々な経験を通じて)培った海外の研究者とのネットワークや、卒業後世界に散らばった博士課程の仲間との繋がりは、今の仕事を行う上でも貴重な財産になっています。

―学生時代に経験されたことで、今の研究者としてのキャリアに繋がっていると感じる、印象的なものが何かあれば教えてください。

大学院修士課程から博士課程にかけ、雑誌『外交フォーラム』(現在の『外交』)編集部で3年半ほど編集補助のアルバイトをしていました。研究者にとって重要な編集技法に加え、仕事の中で著名な先生や外交官の原稿に目を通す中で、良い文章の書き方、タイムリーで意義のあるトピック・企画を選定する眼が養われたのではと思っています。

その後縁があって、国際交流基金の「情報センター」という、パブリック・ディプロマシーを統括する新設部署でもインターンをしました。そこでのメインの業務も、基金の広報誌の編集作業でした。日本の対外的な情報発信や広報外交には当時から関心があり、その意味で今の仕事とも直結した経験だったと思います。 オーストラリア国立大学(ANU)留学後は、研究以外に指導教官の主催する会議の運営補助などを通じて、国際会議のノウハウを学びました。ANUには世界中から多様な人材が集まるので、 こうした経験を通じて培った海外の研究者とのネットワークや、卒業後世界に散らばった博士課程の仲間との繋がりは、今の仕事を行う上でも貴重な財産になっています。

防衛研究所のお仕事-大学にはない醍醐味と若手のチャンス

―博士号を取得後、防衛研究所に入所されていますが、以来のキャリアを振り返り、「防衛研究所の醍醐味」 ともいえる印象深かったお仕事があれば教えてください。

デンマークのDIIS(Danish Institute for International Studies)への訪問時の写真
(佐竹 知彦 氏 提供)

(世界において、日本を代表する国立の安保研究機関として知られている)プレステージを利用して、海外とのネットワーキングも拡大するのも、防衛研究所というシンクタンクの重要なミッションであり、醍醐味だと思います。

後でお話する防衛省内局での経験の他、印象深い仕事が幾つかあります。

一つは2012年に、母校であるANUと日豪安保協力に関する共同研究プロジェクトを実施したことです。実は防研が民間(といっても国立大学ですが)の研究機関と共同研究を行うのはこれが初めてのことで、あらゆる意味で手探りのプロジェクトでした。プロジェクトでは双方の機関で1回ずつワークショップを開催し、その後共同研究の成果として日英両言語による報告書の作成を行いました。まだ防研に入って3年目で右も左もわからない中、色々な人にご迷惑をおかけしつつも、何とか報告書の出版にまで漕ぎ着けることができました。その結果、これをベースに防研と民間の団体が共同研究をするという1つの道筋ができました。当時の所長に直談判し、共同研究のキックオフのためキャンベラまで出張に出向いて頂くなど、今から考えると随分無茶なことをしたと思いつつも、所長の懐の深さに感謝するばかりです。

もう一つ、2016年度に担当した「欧州研究交流」で、スウェーデンやデンマークの研究機関を訪問したのも印象深い思い出です。それまで欧州交流は英国やフランス、ドイツなどが圧倒的に多かったのですが、防研の研究ネットワークの拡充という観点から、あえて北欧を選択しました。両国では、国防や国際関係に関する研究機関を訪問し、日本を取り巻く安全保障情勢や日本の安保政策について現地の研究者と意見交換をしました。実はそれまで欧州への訪問は数えるほどしかなかったので、米国やアジアとはまた一味も二味も違った、欧州の対日観を肌身で感じることができました。これらの機関とは現在も交流が続いていますので、研究ネットワークの拡充という意味でも、意義深い訪問だったと思います。

実は防研は、国内よりも海外での方が有名です。国立で安全保障を研究している日本の研究機関は殆ど無いので、各国で歓迎され貴重な意見や情報を相互に交換できます。向こうからも、例えば中国の動向に関心の強いヨーロッパ諸国の代表団などがよく訪問してくれる等、無数の諸外国との交流案件が転がってきます。こういったプレステージを利用して、海外とのネットワーキングも拡大するのも、防衛研究所というシンクタンクの重要なミッションであり、醍醐味だと思います。

―防衛研究所と大学の環境は大きく違う側面があると思います。「防衛研究所に“あって”、大学に“ないもの”」 は何だと佐竹先生は思われますか。

何と言っても、防衛省の政策部局との兼務を通じて政策決定の現場を知りうること、第一線で活躍する事務官や、1佐・2佐クラスの自衛官の方と日常的に接し、意見交換ができるのは、防研ならではの環境であり魅力です。

何と言っても、防衛省の政策部局との兼務を通じて政策決定の現場を知りうること、第一線で活躍する事務官や、1佐・2佐クラスの自衛官の方と日常的に接し、意見交換ができるのは、防研ならではの環境であり魅力です。幹部自衛官の方に対する講義・教育などを通じて、自衛官の方から軍事の専門知識や現場の相場観を伺いながら、自らの研究が磨かれていくのは、日本の大学では経験し難いことと思います。

また、日本各地の自衛隊駐屯地を訪問する「部隊研修」の機会もあるので、安全保障の現場を生で知ることもできます。私自身は、初年度研修で自衛隊の富士学校に体験入隊をしたのも良い思い出です。レンジャーの方の指導を受けたり、重い荷物を背負って行軍したり、桶を抱えて風呂場に行進したり…。国防の最前線に立つことの緊張感と重みを、身をもって知ることができました。

防研は大学に比べ事務・教育負担がそこまで高くないので、若手研究者が研究に集中できる環境が整っているとは感じますね。対外的な発表には事前の許可が必要とか、大学とは異なる制約はあるにせよ、基本的には研究のテーマ設定の自由度は高いです。また入所一年~数年目から、外交政府要人や大使館の訪問団が参加する意見交換会に陪席できたり、人によっては日本政府高官にブリーフィングする機会があったりと…やる気さえあれば、若手でも様々なチャンスが転がり込んでくる組織だと思います。

―防衛研究所と大学とで、研究者が働く上で求められる資質の差などがあれば、教えて下さい。

防研には文官・自衛官合わせ90名以上の研究者が在籍し、タイプも様々ですので一言で「資質」を表現するのは難しいですが、強いて言えば一般の大学に比べチームプレイが多いので、最低限のコミュニケーション能力は必要だと思います。また研究交流や意見交換で日常的に英語を使用するので、相応の語学力は求められます。とは言え、これらの能力は入所してからでもある程度は鍛えることができます。やはりもっとも重要な資質は研究に対する飽くなき情熱と、未知の問題に対する知的好奇心でしょう。これは防研、大学でのアカデミック・ポストを問わず研究者にとって重要な資質だと思います。


―ありがとうございました。中編では、研究と政策をつなげるお仕事として、防衛省防衛政策局国際政策課部員としてご活躍された時代と、現在の政策シミュレーション室のお話を伺います。

(聞き手・編集:瀬戸崇志)

佐竹主任研究官には2019年9月9日開催の『政策起業力シンポジウム2019』での個別分科会B『新領域/フロンティアの外交・安全保障-研究と政策を繋ぐこれからの研究者の役割-』にご登壇頂きます。詳細はこちらをご覧ください。(お申し込み締め切りは、9月6日金曜日までです)。

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