政策起業家としての政治家2.0 (中編) ―菅原直敏 神奈川県議が語る、テクノロジーと共生社会―

政策起業家としての政治家2.0 (中編) ―菅原直敏 神奈川県議が語る、テクノロジーと共生社会―

シリーズ「政策起業家Retrospect & Prospect」第6回

中編では、Publitechを中心とした地方自治体へのテクノロジーの社会実装への取り組み、またその根幹にある共生社会という哲学というテーマで、お話を伺いました。

前編はこちらからご覧ください。

共生社会とPublitech:テクノロジーの社会実装と「哲学」の重要性

―現在代表理事を務められる一般社団法人Publitechの概要を改めて教えてください。

社団としてのPublitechは、2018年10月に設立され、➀行政のデジタル化、➁社会のデジタル化、③共生を共創するエコシステムの構築と実践の3つのビジョンを掲げています。ここでは「共生を共創するエコシステムの構築と実践」を最終目的とし、➀と➁を目標実現の手段という位置づけ、3年という時限付でのプロジェクトとしてキックオフしました。

ここまで自治体のDX(Digital Transformation)や、テクノロジーによる社会課題解決に関する各種の勉強会・イベント開催の他、自治体職員へのDX研修である47都道府県DXツアーなどの各種の普及啓発事業を展開し、延べ動員数は3500名を超えているほか、鎌倉市長やつくば市長などの先端自治体首長を巻き込んだパブリテック首長ネットワークなど、様々な活動を展開しています。また2019年11月には、福島県磐梯町が日本の自治体で初めて、最高デジタル責任者(CDO)を設置することとなり、私自身が初代CDOとして磐梯町の活動を支える立場にあります。

―主に、地方自治体のDX推進やテクノロジーによる社会課題解決が大きなミッションであるのでしょうか。

確かに①と②の理念や個別具体的な活動を見ると、地方自治体のDXを推進する社団のようにも見えますが、本質はそこではありません。我々のミッションの本質は、「テクノロジーで人々をエンパワーメントしうる社会を創る」ことです。”Public”という言葉から行政をイメージする人が多いと思うのですが、ここではもっと俯瞰し「人々=社会=公」という意味で使っています。

我々のミッションの本質は、「テクノロジーで人々をエンパワーメントしうる社会を創る」ことです。

現在の取組みは、菅原様のキャリアの軸の中に、どのように位置付けられるのでしょうか。

ここで「自分らしく生きる」という、僕の大学時代の原体験へと回帰していきます。「そもそも、なんであんな満員電車に乗るんだろうか」―確かにあの当時は、今ほどにICT技術は発展しておらず、働くことが通勤・出社と紐づいていたためそうせざるを得なかった。しかし今は、僕は様々なテクノロジーによってリモートでも全く問題無く日々の仕事はこなせてしまう訳です。

このようにテクノロジーを活用することが、個々人がよりよく生きる上で不可欠というのは、私自身が介護の現場から得られた知見です。そこから今度は地方課題をテクノロジーの実装によって解決しながら、望む理念を実現できるのではと思いになりました。言い換えれば、テクノロジーという社会にある資源を組み合わせ、「誰もが自分らしく生きる共生社会」をつくる。それはソーシャルワーカーとしての自らの人生の来歴の一直線上にあります。

Publitechはtechnology が先行するのではなく、理念が先行するということですね。

そうですね。これは特に今般、テクノロジーの社会実装・利活用がしきりに議論されている中で重要な視点であると思います。日本はこの文脈だと、技術自体の議論、90年代のようなデジタル化による費用削減・効率化、あるいはスマートシティのようなキャッチーなアイデアばかりを議することが多い印象を受けます。「まず技術ありき」ではなく、「テクノロジーで解決したい課題は何か」を整理する重要性は言うまでもありません。

ただ私はそれでもまだ足りず、本来「達したい哲学・ミッションは何か」のを根本的に突き詰めねばならないと考えています。例えば電子政府構想で世界的に有名なエストニアは、世界で初めて電子投票制度を導入していますが、自治体により様々なコストがかかり、日本で考えられるほど夢のような代物ではありません。それに対して多くの視察に来た日本人は「なぜ費用・労力も削減できないのに電子投票をやっているのか」と訝しむそうです。

本来「達したい哲学・ミッションは何か」のを根本的に突き詰めねばならないと考えています。

しかしエストニアには「哲学」があります。あの国は永らくソ連に占領されてきた歴史があります。だからこそ次に祖国が失われ、国民が世界に散り散りになってても、電子投票で政府を「クラウド化」してエストニアを死守せねばならない。こうした哲学があるからこそ、あの国のデジタル化・電子政策は成り立っているのであり、日本にもそうした議論が必要だと思います。

磐梯町CDO:テクノロジーと住民・行政・議会の間の翻訳者として

―菅原様は福島県磐梯町CDOとして、実際に地方自治体の中でデジタル化を巡る行政・住民とのコミュニケーションの最前線にいらっしゃると思います。地域のステークホルダーの方からの理解を得る上で、工夫されている点はありますでしょうか。

一般論として、究極的には「テクノロジーという言葉を使わない」ことだと思います。よくあるのが、結局テクノロジー・技術の話になると、(実際はそうではないけれども)「高齢者が使えない」との話で止まってしまう訳です。

このボトルネックを突破するには、技術進歩のレベルの話と、ユーザー・インターフェイスの話を全く別物として分けて考えてる必要があります。よく使う例え話ですが、皆さん「スーパーコンピューター」って使ったことはないという話だと思います。私も使ったことはないのですが、それは半分本当で半分嘘なわけです。

実はスマートフォンやタブレットPCに搭載されている技術は一昔前のスーパーコンピューターです。このように説明の方法を工夫すれば磐梯町でも、お年を召された方も含め9割までは翻訳ソフトを用いて外国人と会話できるようになるでしょう。この時、その高齢者の方々は自覚無しにAIを使えていることになります。

―丁寧な説明の工夫が重要であるということですね。

はい。あとは磐梯町CDO設置に関しては、非常に丁寧な根回し・調整過程を経ています。町長副町長・総務課長・政務課長の政務三役に納得して頂き、次に全部の課長と会議して了承を経て、そのあとに議会の全員協議会で議員全員に納得して貰い辿り着いた地点です。CDOとしての最初の取組みも、それこそ華々しいものではなくて、職員のマイナンバーカード普及率を向上させるとか、そういう簡単なとこから一歩一歩始めていくものです。

「先進的なアイデアを外から持ってくる」こと自体はそこまでに難しいことではありません。一方で「それが本当に市民のために活きる形にする」ためには幾つもの超えるべきハードルがあります。それは行政内部の手続きとか、議決機関たる議会であることもありますが、その各プロセスの中で、どのように関係者を同じ方向性を向かせるか、そのプロセスが私自身には見えていますし、意識して行動しています。 

―ありがとうございました。最終回に当たる後編では、テクノロジーの社会実装における地方議会との向き合い方、また「政治家2.0」とも言うべきこれからの新しい地方議会議員のあり方についてお話を伺います。

(聞き手・編集:21世紀日本の政策起業力プロジェクト)

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