政策起業家としての政治家2.0 (後編) ―菅原直敏 神奈川県議が語る、これからの地方議員―

政策起業家としての政治家2.0 (後編) ―菅原直敏 神奈川県議が語る、これからの地方議員―

シリーズ「政策起業家Retrospect & Prospect」第6回

後編では、テクノロジーの社会実装における地方議会との向き合い方と、新しい地方議会議員のあり方「政治家2.0」というテーマでお話を伺いました。

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地方政治とテクノロジーの社会実装

―中編に引き続き、地方政治×テクノロジーという点で、地方政治における議会と向き合う中での難しさを感じられる点はありますでしょうか。

議会に説明していない以上は、いかなる先進的な取り組みでもいつまで経っても実証実験の域は超えない。実はそれがテクノロジーの積極的な実装・DXに取り組む先進自治体が、今後超えて行くべき壁であると言えます。磐梯町CDO設置に向けて私が取り組んできたことは、先ほど(中編参照)お話した通りですが、住民の縮図である議会との関係の中で、どのようなコンセンサスを形成していくかは、常に意識しなければなりません。

他方で、特に先進的な取り組みは、数千・数万単位の住民を誇る大きな行政単位から切り込んで進めるのは難しい部分があります。例えば磐梯町クラスの、住民規模が3000人やそれよりも小さい町だと、議員は10名程度で本当に少ない。行政にしても70人くらいの職員の町であれば全員をLINEやSlackなどチャットツールを使って繋げることも、半年くらいあれば出来るでしょう。これはアメリカの地方議会にも似ていて、まさに取締役モデルで、首長のコミットメントの下で、ステークホルダーの当事者意識を持った意思決定も早い。

CDOとしては、「本当の意味での決定権者になれる」という、そういった意識を関係者には抱いて頂けるような形が理想と考えていて、町民全員がチャットツールにアクセスできるようにして意見をダイレクトに拡散させるような仕組みも可能だし、早めにAIやVRなどでリアリティも含めて感じられるような形で、議会を民主化させていくような形でプレッシャーをかけていきたいという思いもあります。

これからの地方議員:地方議員+αという生き方

―「地方議員」というポジションは、ここまで(広義の)ソーシャルワーカーとしての菅原さんの人生の中で、どのような意味を持つものなのでしょうか。

地方議員であることの意味は、議員が100人いれば100通りあるものだと思います。ただ私についていえば、一貫して「地方議員の新たなロールモデル」をつくることに、現職議員としては挑戦しているといえます。25歳で当選したときは、若くして当選した議員のロールモデルに、30前後では政策畑の議員のモデルとしてのふるまいを意識していました。

私についていえば、一貫して「地方議員の新たなロールモデル」をつくることに、現職議員としては挑戦しているといえます。

さて、40代になった現在はどうかと言いますと、まず前提として、地方議員・地方議会の在り方が様々な意味で制度疲弊を起こしています。生活を支えるだけの報酬を貰えない問題であったり、議会だけを見続けることで政治化して視野が狭くなってしまったり、色々ありますが、今多くの地方議員さんが、自らのあり方について悩んでいる方が多いという印象を受けます。

その意味では、例えば複数の職を持つパラレルキャリアのような在り方も含め、議員として本当の意味での社会変革に関わっていくためのロールモデルを築いていくことに、現在は心血を注いでいるといえます。例えば磐梯町のCDO就任は、現職の県議会議員でありながら、他の基礎自治体の政策アドバイザーをするという、見方によっては相当にエポックメーキングなことですよね。

同時にPublic dots & Companyという、 社会課題解決に向けた官民連携を促進するためのデジタルプラットフォームを提供する会社を立ち上げてもいる。こうした可能性を示すことによって、地方議員としての新たなロールモデルを示すことが現在の自身のミッションだと考えています。

—まさに、新しい地方議員像、政治家2.0のような生き方ですね。

日本だと、馴染みのないような議員像に見えつつ、例えば国外に目を向けると、欧米の地方議員も、自治体によっては議会に参加した日だけ手当が出るなどといったシステムもあり、基本的には議員とは別の名刺、兼業・副業を持っていることが前提です。

勿論、自治体の性質によっては専業議員が望ましい場合もあるのかとは思いますが、いってしまえば議員のあり方も、本来は住民自治の原則によって、それぞれの自治体毎の事情に応じて決されるべきものだと考えています。その点で、現在の地方自治法の画一的な制度にはかねてより様々な問題意識は感じていますが、まずは自身のモデルを示していきながら、地方議員・議会制度をアップデートしていく試みを続けていきたいと考えています。

―地方議員が、兼業・副業で議員とは別の現場を持ちながら、一方で議員であることが、社会課題解決にとってどのようなメリットを持つものなのかを教えてください。

幾つかあるのですが、一つは、議会政治以外の手段も含めた、様々な手段をフラットに駆使できることです。例えばどこかの地域の空き店舗が問題だとなった時に、議会だけだとそれをまずは「議会で取り上げなければいけない」、とのインセンティブが働きます。空き店舗対策なんて県議会議員が広域行政で扱う問題ではないし、そもそも行政が扱うべきか、民間が扱うべきか微妙な問題に、行政側の議会対応のリソースを貼るのも筋が悪い。

一方で議員の立場だけに捉われると、「議会で取り上げないと有権者に対してアピールできない」という発想になるからです。私の場合は議会にいながら民間企業も経営し、非営利法人も持っているので、ミッションで生きて、どのイシューに対していかなる手段を駆使するのが適切なのかを選んで行動できる強みがあります。

そうはいいつつも、議会を通じて行政に対してアジェンダ・セッティングを行えるのは、機能として魅力的ですね。特に私の専門分野である福祉の世界ですと、900万人の県民から選ばれた100名以上の県議会議員がおり、その背後に行政の様々なバックヤードのスタッフも控えています。

そうした膨大なステークホルダーに、未だ共有化されていないイシューを私が議会質問や質問主意書等で取り上げながら共有出来るのは、議員だからだと思います。ちなみに少し脱線しますが、公務員と比較した際の議員の強みというのは、そういったプロセスを通じて、行政体全体を俯瞰する能力が備わっていくことかとも思います。

私の場合は議会にいながら民間企業も経営し、非営利法人も持っているので、ミッションで生きて、どのイシューに対していかなる手段を駆使するのが適切なのかを選んで行動できる強みがあります。

これから地方議員を志す皆さんへ

―ありがとうございます。最後の質問として、菅原様のような地方議員+αのキャリアを考えている後輩・若い人たちに向け、何かメッセージやアドバイスがあればお願いいたします。

 まずは「最初は、民間セクターにいった方がいいかもしれない」ですかね。皆さん公共の仕事というと、すぐに議員や公務員をイメージされますが、本来官も民もパブリックなものなんですよ。上場企業も上場した瞬間に強い社会的責任が求められ、またSDGsなどの流れの中で民間における公共性が事業に大きな影響を与える中で、民間とパブリックという分け方がナンセンスだとも思うのです。

特に若くして議員になりたい人に相談を受けるのですが、議員なんていつでもなれるので「やめな」って言うんですよ。議員はタイミングさえあえばいつでもなれるんですよ。でも民間の経験で得られるものはかけがえのないものであったりします。

それは大企業に就職しなければならないかと言うと、ベンチャーやNPOでもいいとは思います。物事は民が主体になって動かしているというのもあり、同時に民の中に入ってみると実は公共性の高いことも多く、社会のインフラになっている。その実情を知ったうえで公に関わっていく人間になっていけば、いいと思います。

官民双方どちらにもいた経験があり、プレーヤーであった経験がある人は、単線的なキャリアしか知らない人よりも視野が明らかに広いです。視野が広いということは解決策の選択肢も広く、提案もできるということになります。本当の思いを実現するためには複線的なキャリアがあって然るべきであり、特に現職議員は悪い意味で議員職にしがみつかなくもなります。

もう一つは「世界単位のスケールの大きな話もいいが、近くの自治会にあるミニマムな課題解決にも向き合ってみて欲しい」ということです。世界の貧困とか、そうしたグローバルな課題に皆さん目が向きがちですが、同時に一番身近に触れられる社会課題も地方には沢山あります。近くの自治会でLINEグループを作り、ローカルな課題を皆で解決していきましょう、地元のおじいちゃんがそうしたツールを使えない場合どうしましょう、そうした目の前の切迫した課題を解決していく中で、得られる気づきが沢山あるはずです。そうした経験を持った上で、この世界に入ってきてくれれば、とも思います。


―ありがとうございました。

(聞き手・編集:21世紀日本の政策起業力プロジェクト事務局)

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